SDGs Coldplay 音楽

【週刊 米国スポーツ&エンタメ最新SDGs事例 #1】Coldplay ネット・ゼロカーボンのワールドツアー22年実施へ

♬Playlist of this Article


【当シリーズについて】
近年話題のSDGs。対応に追われた企業では、「バッジをつけるだけ」「ホームページ上で既存取組の名前を『CSR』から『SDGs』に変えるだけ」の”なんちゃってSDGs”が横行しています。
2030年を過ぎてもSDGsブームは終わりません。なぜならそんな簡単に世界は変わらないから。名前は変わってもこの時代の潮流は変わりません。
それならば、本質的なSDGs策を考えませんか?
とっつきやすいスポーツ&エンタメ界のアメリカ最新SDGs事例を通して、SDGsのエッセンスを一緒に学んでいきましょう。


Contents

Coldplay ネット・ゼロカーボンのワールドツアー22年実施へ

SDGs Coldplay Climate Pledge Arena

10/14(木) 世界的人気を誇る英ロックバンドColdplayが、15日の新アルバム「Music of Spheres」発売に合わせて、コスタリカ~アメリカ~ヨーロッパ各国を周るワールドツアー(2022年)を行うことを発表した。

2017年以来実に5年振りとなる本ワールドツアーの発表のニュースは音楽メディアのみならず、ビジネス・一般メディアをも賑やかしている。
それは、本ツアーがCO2排出量正味ゼロを意味する「ネット・ゼロカーボン」のコンサートツアーとなるとしているからである。

Coldplayは前作アルバムが発売された2019年にもワールドツアーの実施を計画していたが、「十分に環境に配慮できるツアーができない」ことを理由に中止した過去がある。

それが2年越しに「自分たちが納得できる水準で環境に配備できるツアーを行う準備が整った」として、満を持してツアーの実施が発表されたわけである。

■12項目のイニシアチブからなるツアーのサステイナブルプラン

SDGs Coldplay Climate Pledge Arena

ワールドツアー実施の発表と同時に、同バンドは本ツアーを持続可能なものにするためのサステイナブルプランを公表した。

サステイナブルプランでは、3つのプリンシパル(①Reduce、②Reinvent、③Restore)に基づき、当バンドの前ツアー(2016-17年に実施)と比較してCO2排出量50%の削減すること、及び、ツアーで排出されるCO2を超える量のCO2削減(オフセット)を実現することを誓約している。
また、実現のためのアクションを具体化する12のイニシアチブ(CO2削減、エネルギー、交通、ファン、マーチャンダイスといったカテゴリーからなる)を公開。

その中で、コンサート開催のためのエネルギーはすべて再生可能利用エネルギーで賄うとし、会場各所に設置するソーラーパネルやBMW社が提供する二次電池を活用する他、人の動く衝撃をもとに発電するキネティックフローリングを観客の足元に敷いての発電を行う。また、ファンが乗ってペダルを漕ぐことで発電可能な自転車を会場に設置する。

コンサート開催におけるCO2排出量の大半を占める会場まで会場からの観客の移動については、SAP社と共同開発した無料専用アプリを通じて会場でグッズ購入などに使用できる割引クーポンを発行して、より環境にやさしい交通手段の利用を呼び掛けるとしている。
このアプリの追跡機能をもとに、各コンサートにおける移動にまつわるCO2排出量を算出し、削減目標の進捗管理も行う。

各コンサート会場となるスタジアム・アリーナなどの施設にはサステイナブルガイドラインを共有し、高い水準で環境に配慮した設備や会場づくりを要請するとのこと。

各会場では、来場者がソーラーパネルやキネティック発電を体験できる形のアクティベーションも用意する。

オフセットの面では、会場にクリーンTech企業Climeworks社のCO2回収装置を会場に設置し、環境保全・修復を目的としたさまざまなプロジェクトへの支援や、チケット販売枚数と同じ本数の植林を実施する。(前ツアーの観客動員数は540万人を動員。英BBCによると、英国全体の1年における植林本数が2000万本なので、その1/4以上に匹敵することになる)

また、こうしたツアーの取り組みは今後も持続可能なものとするために、出来不出来に関わらず気候変動の専門家とともに効果測定を実施する。
また、Live Nation社のサステイナビリティプラットフォームにおいて、アーティストアドバイザーとして、業界内に本ツアーでの学びや知見・ノウハウを共有することでスケーラブルな取り組みにしていくことを約束している。

■10/22(金)Climate Pledge Arenaのこけら落としのグランド―オープニングアクトに抜擢

SDGs Coldplay Climate Pledge Arena

Climate Pledge Arenaは米シアトルに位置するアリーナで、2020年6月に、同市に本社を置くAmazonが命名権を獲得したアリーナである

通常、命名権を取得した企業は認知度向上や商品・サービスの販売促進のために会社名を冠した名称にするところ、Amazonは自身の推進する気候変動対策イニシアチブの誓約Climate Pledge(直訳:気候への誓約)にちなみ命名。
Amazonは命名権の購入額を公表していないが、通常アリーナの命名権が3~4億ドルであることを考えれば、同社の気候変動対策への取り組みの熱量が感じることができる。

そんな同アリーナは、世界で初めてネット・ゼロカーボンの認証を受けているアリーナとして注目を集めている。長年KeyArenaの名称で親しまれていたアリーナの改修には実に11.5億ドルものお金がつぎ込まれた。
日本におけるアリーナ建設費用の相場が1億ドル前後であることを考えるとそのスケールの大きさが分かる。もちろん米国のアリーナの建設費用としても大きな金額だ。

この度改修作業が完了し、アリーナは2021年10月に待望のオープンを迎える。そのこけら落としのグランドオープニングアクトとして発表されたのが、Coldplayだ。
以上述べてきた背景を鑑みると、気候変動・観光保全に熱心に取り組む両者がこうして交わるのはある意味必然だといえよう。

Coldplayのワールドツアー日程にClimate Pledge Arenaは予定されていないが、4年振りのコンサートとなる今回は間違いなく同ツアーの試金石としての側面も併せ持っているといえるだろう。

本コンサートはAmazon MusicとPrime Videoにてライブ配信されるとのことなので、ご都合が許す方は是非!

■Coldplayのワールドツアーはイベント興行界のデファクトスタンダートとなれるか

コロナ渦を挟み2年越しの準備期間を経て発表されたColdplayの本ワールドツアーに、とても大きなポテンシャルを感じる。

これまでも、環境に配備したコンサートやイベント自体は多数開催されてきたのは事実だ。
しかし残念ながら、どれも単発や小規模なものばかりで、文字通り「サステイナブル」といえるものはほぼないと言っていいだろう。

その意味においても、Coldplayほどの世界的アーティストが長い年月をかけて温めてきた本ツアーの取り組みに期待せずにはいられない。
ツアーのオフィシャルサイトを見ても、様々な企業や関係者を巻き込み持続可能な形を模索していることが見て取れる。

これほど影響力を持ったアーディストの取り組みが成功すれば、今後のコンサート及びそれ以外のすべてのイベント興行におけるデファクトスタンダードとなる可能性を秘めている。

そうなれば、イベント興行界及びその周りを囲む様々なステークホルダーの業界地図は一変することになる。
それも、恐らく皆が想像するよりも遥か早いスピード感で。


👉こちらから無料でダウンロードいただけます。是非ご活用ください。】


Sho Kume 久米翔二郎

NYに本社を置くスポーツ&エンタメの経営/戦略コンサルティングファームTrans Insight のCHO (Chief Hustle Officer)。
1990年愛知県名古屋市生まれ。音楽専門学校MESAR HAUSエレキギター科/東京大学法学部卒、
戦略コンサルティングファームP&E Directionsの北米オフィス代表(NY)を経て、現職。
音楽/映画/格闘技/X Sports/スタンドアップコメディ/NY/Hustle  をこよなく愛するサイコパス。